これは中学一年の頃の話し。オレはどういう訳か、文化祭のクラスの演劇だか何かの出し物の役員に選ばれていて、その打ち合わせで中学校の近所の光明寺(サバゲーのフィールドに使っていた)に集まる事になった。で、自転車で出掛けていったのだが、何を慌てていたのか、猛烈に自転車を漕いでフルスピードで光明寺を目指していた。そして、あと1本道路を横切った先が光明寺、という時、全力でその道路を横切ろうとしたのだが、左側の視界にこれまた全速力のダンプカーが突進してくるのが見えた。信号が赤だったのか青だったのか記憶にない。咄嗟に「危ない!」と思ってブレーキを掛けたのは良いのだが、自転車は後輪をフワリと揚げて停止(バイクでいうところのジャックナイフ)し、そのまま前方に転倒してしまった。記憶にあるのは、急速に地面が迫ってきて、直後にものごっつ(物凄く、の関西弁)痛かった事。どうやら顔から地面に激突したらしいのである。たまたま、道路の向こうで集まっていた他の役員の連中が駆けつけてきたが、オレの顔を見るなり「!」とお化けでも見た様なリアクションである。そして、今日はもう良いから帰れ、という事になり家に帰った。
 さて、どうやら顔面大負傷という事だけは判ったが、どうなっているかは鏡を見ない事には判らない。取り敢えず、オカンを驚かしては不味いと思い、オカンが玄関を開ける前に断りを入れたのだが、オカンはオレの顔を見て驚かず、「アンタ、なんちゅう顔してんの」と大笑い。学校の連中は「痛ましい」リアクションだったのに、オカンは「大笑い」であるから、一体どんな顔になっているのかと思い鏡を見てみると、地面に激突した右顔面がズル剥けになって、砂と血とリンパ液でドロドロになっている。これには本人が一番ビックリして腰抜かしそうになった。まるで、「お岩さん」か原爆被爆者みたいである。しかもジンジン痛く熱っぽい。とにかく顔を洗い薬を塗って、その日は算盤塾にも行かず寝た。
 明くる日、顔の右半分を締める擦過傷は一斉に乾燥し始め、バリバリになってしまった。しかしそれ以上に、誰が見てもビックリする様な顔が恥ずかしくて、学校に行きたくなかった。散々ゴネ倒し、一時間目が始まる時間まで「学校休む」と粘ったが、オカンは「その顔が治るまで学校やすむんか!」と叱り飛ばし、格好悪いのは最初の内だけや、と放り出されてしまった。学校に向かう道すがら、すれ違う人の視線が気になって死にそうだった。学校に着いて、今朝のやり取りをクラスの親しい奴に話すと、「えげつないオカンやなぁ」と同情してくれた。