ワタクシ、当年とって30歳。押しも押されぬ大丈夫だと思っていた。ところが、これは一体何年ぶりになるのであろうか、風呂屋の入り口でマジ転けした。文字通り体は地面を這いつくばり、手にしていた風呂桶は3メートル先まで飛んでいき、怪我する場所までガキの時と同じく膝小僧であった。しかし、最大級のダメージは、左親指の右側の皮がベロリとめくれてしまった事だろう。どうやら階段の桟かどこかに思いっきりぶつけたらしく、これも文字通り「炸裂」した状態でめくれている。面積にして15ミリ平方くらいである。
 痛さよりもまず先に、来ている服がどうなったか気になった。別に上等の服を着てた訳じゃなくて、いい加減くたびれたスェットなのだが、後1ヶ月は保たすつもりだったのだ。だのに右の膝が見事に破れている。さすがのオレも破れた奴はみっともなくて着れない(それ以前に遙かにくたびれているのに、そこへ持ってきて破れてたら、貧乏人丸出しである)。もれなく買い換えである。これで腹がたった。第二に怪我である。膝が剥けるのは判るが、何で足の親指の皮が炸裂しとんのか、見当もつかん。血が噴き出して、風呂に入るとめっちゃ痛そうである。これでまた腹がたった。最後に、いい歳して子供みたいに、なんでこんなところで転けるか、というので一番腹がたった。オレは足下が危ない質で、戦闘間もたいてい間の抜けた転け方をするが、それでも怪我なんぞした事がないから、笑い話で済ませれる。しかも不整地だ。しかし、ここはしっかりした風呂屋の玄関である。こんなところで転けてる奴がいたら、やっぱり面白いだろう。
 そもそも、オレはこの事件が起こる5分前まで石油ストーブも前でうとうと寝ていたのである。ところが午後11時10分、おもむろに目が覚めて、「いかん、風呂行かな」とフニャフニャの頭抱えて風呂屋に向かったのだ。つまり、思いっきし寝ぼけていたのである。これが普通ならば、一晩の風呂など諦めてそのまま寝てしまうのだが、一昨日は泊まり番、昨日は午後11時までお出かけ(帰った頃には風呂屋は閉まっている)、今日は三日目でめたくそに頭が洗いたい。しかも日曜の今日を逃すと、明日は定休日で入れず、明後日の夜、つまり5日間風呂なしの驚異的衛生状態におかれてしまうのである。だから、何がどうあっても今夜風呂屋に行かねばならなかった。
 だからあちこち傷が痛いにも関わらず、悪態と呻きを発しつつ、風呂屋ののれんをくぐった。でも、おばちゃんに「これは痛いよ、今日はやめといた方がいいよ」と言われ、結局入れなかった。おまけに親指の傷から血が出てて、風呂屋のカーペットを汚してしまった。おばちゃんにしてみれば、オレの怪我よりカーペットの方が重大問題だったに違いないが、血を見ると逆上する質なのか、しきりに「救急車呼ぶ? 呼ぼうか?」と心配してくれるので、ダイジョウブっす、とか何とか言って帰ってきた。(本当は医者に処置してもらいたかったが、所詮はかすり傷であるし、それに救急車などで訳判らん場所の病院に連れ込まれたら、帰りが大変なので遠慮した)
 結局、痛い思いしただけで、風呂には入れず、後1ヶ月もたす筈の普段着は買い換えねばならず、おまけに風呂にも入れなくて頭は痒くて仕方がない、という体たらくなのである。そして、これを打っている最中にも、にゃんにゃんの砂箱の始末をしなければならぬという(しかもビチビチ)、悲しい30歳なのであった。それにしても、明日会社に行けるあろうか。靴が履けなさそうな気がするのだ。