8ce972b9f74d0e93cac9ab9779cee309

 一面真っ白な包囲された村に、輸送機からパラシュートでコンテナが投下されていく。餓えた兵隊たちが群がってコンテナをぶち破ってみると、出てきたのは鉄十字勲章の山。でも兵隊たちはそんなものに目もくれず、チョコレートの缶をこじあけてむさぼり食っている……。

 1993年に公開された映画『スターリングラード』の印象的な一場面なんだが、ここで出てくチョコレートの缶というのが、このショカコーラである。ドイツ軍マニアなら大抵知っていると思うが、昔(今もそうなんだろうか?)ドイツ軍で使われていた缶入りのチョコレートである。エスビットにも共通する物があるんだが、雑嚢に入れていて邪魔にならないサイズで、板チョコとは比べ物にならない味わいのある缶だ。御徒町のガード下をプラプラしていて、舶来物の缶詰や菓子を扱っている店においてあった。マニアの間では昔からあるのは知られているが、値段はかなり上がっていて、476円もした。たった100グラムのチョコレートが500円近い値段である。軍装品的感覚でないとなかなか買えないではないか。
 このチョコレート、そこらのミルクチョコレートと違って、いわゆるビターテイストである。しかし最近流行のやたらと苦いチョコレートと違って、そこはかとなく苦い、つまりちょっと大人の味のチョコレートなのだ。缶の裏に貼られている日本語の説明書きによると、「1935年から作られているカフェイン入りのビターチョコレート(カフェイン0.2%含有)。集中力を高めたいときなどにおすすめです」との事だ。ここいら辺りに、軍隊で採用された理由がちょっと見え隠れする。昔、ドイツ軍では、とある実験で、食後に紅茶を与えた部隊とコーヒーを与えた部隊では、どっちが士気が高いか調べたそうである。で、コーヒーの部隊の方が士気が高かったのだそうな。どの程度の効果の違いがあるか判らないが、真面目な科学的実験の結果だし、取り敢えず(当時)世界一の科学力を誇ったドイツ軍の言う事だから本当なんだろう。という事は、このカフェイン入りのチョコレートは、集中力促進、士気倍増の強化食だという事になる。なるほど、値が張る訳だ。
 自分は日常的には、買ってまでチョコレートを食いたいとはあまり思わないのだが、それでも酒飲まない人間だけに、好きな部類である。特に、非常食としてのチョコレートには大変関心がある。なんやかんや言っても、ギリギリの緊急時に食える食い物といえば、チョコレートくらいなものであろう。ところが、いわゆる板チョコとかは、輸送の際に折れたり中で溶けて食いづらかったりと、あまりよろしくない。その点、このショカコーラは缶入りであるから、携行するには便利だし、ちょっとやそっとでは壊れないし(パラシュートで投下しても大丈夫らしい)、もし雪山とかで遭難しても、これ食ってりゃ眠気覚ましになって凍死しないかもしれない(実際、ドイツでは眠気覚ましチョコとして食うらしい)。
 個人的にいいな、と思うのは、なんつっても苦いので2つも食えばご馳走様で、ガツガツ全部食ってしまう事がない事。まあ、極度に腹が減っていたら、映画の兵隊みたいに貪り食うのであろうが、普通なら、せめて半分はあとで、という事になろう。何にしても、普通の板チョコなら5枚は買えてしまう価値のあるチョコレートである。一気に食っては勿体ないというものではないか。