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 バイクのタンクからガソリンをバーナーのタンクに移す方法として、寺崎勉さんの「さすらいの野宿ライダー」(1983年)では、バイクのタンクとキャブレターを繋ぐホースを外して、リザーブのガソリンコックをひねって入れる方法を紹介しているのだが、当時、ブロスに乗っていて、バイクの改造らしい改造を一切してなかった(というか、メカ音痴でようせなんだ)自分には、相当な高級テクニックに思えて、実行に移せなかった。ところが、「新・野宿ライダー」(1997年)では、この方法の他に、バイクのタンクの給油口に細いビニールチューブを差し込んで、そのチューブを口にくわえてガソリンを吸い出し、サイフォンの原理でバーナーのタンクにガソリンを移す方法が紹介されていた。
 サイフォンの原理とはなんぞや。理屈では判るのだが、それほど理科の点数はよくなかったので、人に説明できるほどではないので、ここを見てよく勉強する様に。要するに、口で吸い出す訳だが、実はこの方法、かなり抵抗があった。まず第一に、ガソリンを口で吸い出すという方法に生理的抵抗がある。ホワイトガソリンならまだしも、自動車用のレギュラーガソリンは相当に臭いのだ。しかも、揮発してもしばらくは臭いのである。うっかり口に入ったら、そりゃ、かなりキツイ事になりそうなのだ。そんな事するくらいだったら、別個の燃料ボトル持った方がいいや、と思ったくらいである。第二に、上手に入れれる自信がなかった。サイフォンの原理などと、聞こえは格好良いが、実際にやった事ない事に関しては、やはり抵抗あるものである。
 しかし、メリットがない訳ではない。まず、バーナー用のフェールボトルを持たなくても良いのは大きいメリットだ。仮にセパレートタイプのバーナーを使うにしても、ガソリンスタンドで店員のオッサンに「すんません、こっちにも0.9リッター入れて下さい…」とおずおず言わなくても済む。第二に、ポンプや漏斗を持たなくても、緊急に給油出来るのは大きい。フェールボトルを予備の増槽として持つ場合でも、漏斗がないと給油の際にドバドバとこぼしてしまうのであるが、ビニールチューブを使えば、こぼす量を最小限に食い止める事が出来るだろう。「ガソリンの一滴は血の一滴」なのは、大東亜戦争でもツーリングでも同じである。
 その様な訳で、近所のホームセンターでビニールチューブを買ってきた。最初はどのコーナーに売ってるのか判らなかったのだが、別件で水道のホースを買いに行った時に、たまたま同じコーナーにビニールチューブも売っていたので、ついでに買ってきたのだ。太さは何種類かあったのだが、よく判らないので直径6ミリと8ミリの物を1メートルずつ買ってきた。まぁ、バイクのタンクからバーナーにガソリン移すだけなので、1メートルもあれば十分かと思った訳だ。
 さて、帰ってさっそく実験開始。最初はあらかじめ燃料ボトルに入れていたレギュラーガソリンをジョルノのタンクに移す事から。燃料ボトルに6ミリのビニールチューブを底まで突っ込み、もう片方のチューブの端を口にくわえてガソリンを吸い出す。おっとっと、うっかり口の中までガソリンを吸い込んでしまうところだった。大体、口まで20センチくらいのところまでガソリンを吸い上げ、ささっと口からチューブを離してジョルノの給油口に入れてみた。すると、意外にもかなりの勢いでガソリンが注入されていく。意外な簡単さに驚くと同時に、かなりの勢いにも驚く。そして、あっという間に500mlほどのガソリンがジョルノのタンクに収まってしまった。今度は、ジョルノのタンクから燃料ボトルにガソリンを入れてみる。すでにビニールチューブはガソリンで濡れているのだが、口にくわえない訳にはいかないので、服でガソリンをぬぐってから口にくわえ、ガソリンを吸い上げた。今度は、立ったままではジョルノのタンクより燃料ボトルの方が位置が高くてガソリンが流れてこないので、しゃがんで燃料ボトルの位置を低くしてやる。すると、やはり結構な勢いでガソリンがボトルの方に流れ込んでくる。そこでふと思ったのは、「これ、どうやって止めるんだ?」という事。燃料ボトルはともかく、オプティマス123Rのタンクは120ccしか入らないのである。うっかりしていると「血の一滴」のガソリンをあふれかえらせて地面にこぼす事になる。しかし、止めたい時はチューブを上に上げればすぐに止まる事を発見した。まぁ、サイフォンの原理というのは、送り手の位置が送り先の位置より高くなかったら送り出せない訳だから、送り先の位置を高くすればガソリンは自動的に止まる訳である。
 何度かこういう実験を繰り返し、それなりに楽しくなってきたところで、実験終了。さすが、寺崎組長が本で紹介するだけあって、これは良い方法である。難点があるとすれば、手がガソリンで臭い事と、うっかりするとガソリンが口に入ってしまうかもしれない事だが、普通に燃料ボトルにSIGGの給油リングつけて給油しても手は臭くなるし、ガソリンが口に入ってこない様にチューブをしっかりみて(都合いい事にチューブは透明だ)作業する他ない。それさえクリアすれば、この方法はかなり便利である。なんといっても、このビニールチューブ、1メートルで60円くらい、重さも20グラム、まったく嵩張らないのが良いではないか。