ネコというのは、メシ食ってるか、体舐めてるか、うんこおしっこしてる時以外は、大抵はぐてーっと横になって寝ているものだが、その寝床は一カ所ではなくて、お気に入りの場所をいくつも確保しているらしい。この辺は野生のネコ科の動物と同じで、テリトリーの中にいくつも寝床を持っていて、気の向くまま、あるいは止むに止まれず転々とするのだそうだ。こうした性質は完全締め切り型の飼い猫でも同じだそうで、ご主人の膝の上からタンスの屋上、風呂のフタに至るまで、色々好みの場所を持っている。こうした場所を多く持つ事がそのネコの安心感を増大させる要素になるのだそうである。
 さて、我が家の扶持であるが、たった6畳と4畳半程度のアパートにも関わらず、色んな所を寝床にしている。去年の暮れは押入の中、今年の春は本棚の上(ただし、寝返りを打った拍子に床まで落ちてからは止めたらしい)、夏場はもっぱらコンピュータを置いているスチール棚であったが、プリントアウトする度に目が覚めるので嫌になったらしい。今はテレビの上である。テレビの上に陣取るネコは案外多いらしくて、風呂屋でよく出くわすオッサンもそんな事を言っていた。テレビの上のあの丁度いい案配に体が乗るスペースが良いのか、それとも僕がテレビを見る度にホットカーペットの様に体の下が暖かくなるのがいいのか、いずれにしても、用事が済んだらいつもテレビの上で寝そべる様になった。まぁ、その事自体は良いのだ(プリンターの横で寝られるよりは)。
 ところがである。こやつ、一通りお体のナメナメが終わったら、テレビの上で横におなりになるのだが、段々と夢心地になってくると、狭いテレビの上でも横伸びになってくる。するとどういう訳であろうか、脇腹の部分がテレビの端にはみ出して、掴んで下さいと言わんばかりになってくるのである。まさに「オニクー」と言いたくなる状態なのである。最近では言うばかりでは面白くなくなったので、「オニクー」と言いながら脇腹を掴む様になった。夢の世界でネムネムしている状態の扶持にしてみれば、最悪の目覚めをさせられる訳で、実に恨めしい顔をするのだが、またこれが面白い。そんだけ嫌なら、別の場所に行けば良さそうなものなのに、お気に入りの場所からは絶対どかない決心なのか、何べん「オニクー」をされてもテレビの上でオネムに及ぶのである。一見アホとしか思えないが、実は意志の堅い生き物なのかもしれない。