昔、女の人が結婚する条件として、「家あり、車、クーラー付き、ババ抜き。ついでに三食昼寝付き」と言ったらしいが、まるでそれではネコと同じである。要は気楽に快適に結婚生活をやりたいという訳であるが、悲しいかな物を必要とする以上は、それを維持する努力がついて回る。その点、ネコの場合は、文字通り裸一貫であるから、飼い主がイヤな事をしてこない限りは、気楽でそこそこ快適な生活を送れるというものである。雨風がしのげて、ハラ一杯にメシが食えれば、ネコにとってこれ以上の幸せはないらしいから。
 しかし、こんな事を書くと、全国の飼い猫から抗議のウンチが送られてきそうである。というのも、彼らにしてみれば、快適な生活環境を享受する代わりに、ノラネコが享受している完璧な自由はある程度、放棄せざるを得ないからだ。ネコにしてみれば、一緒に生活しているに過ぎなくても、飼い主の方はあくまでネコを飼っているつもりであるいから、それこそ自分の娘には出来ない事でも、ヘーキで色んな事をしてくるからである。まぁ、たまにワイドショーなどを賑やかす「動物虐待」は別にしても、握りっ屁されてみたり、しっぽクシャミされたり、腕持って踊らされたり……、およそ人間でなければ考えつかない様な事をされて、しかも大概の場合はイヤな思いをしているのである。それが飼い猫の宿命であり、それに耐えて初めてネコも飼い猫たる資格を備えている、という事になるのが世間一般の通念である。
 さて、僕の場合だが、昔はそうやってネコと遊んだ(ネコにしてみればいたぶられた)が、最近はめっきり忙しくて、扶持とは全然そんな事をしない。会社から帰ってくると、扶持も多少はべたべたしてくるのだが、エサを換えるのももどかしく、自分のエサの用意をしてマックに取り付いてしまうので、ほとんど構ってやっていない。僕がマックに向かうと、すぐに膝に飛び乗っしばらくはモゾモゾしているが、じゃまにされるとテレビの上に飛び乗って寝てしまう。そのまま、夜半過ぎまで二人とも干渉し合わない(たまに、「オニクー」をやるくらいなものである)。ウチのネコが愛玩動物として取り扱われるのは、僕がベットに入って寝る時である。谷口家では布団の中にネコを入れるのは御法度であったが、それが為に、僕はどうあっても飼い猫と一緒に寝なければ気が済まない性格になってしまった。だから、寝る時はいつも扶持をベットに入れて、添い寝させるのである。これが谷口式愛玩動物のほぼ唯一の条件なのである。
 ところが、扶持の奴はきままな奴で、寒い時は自分から股の間に入ってくる(これをされると寝返りが打てない)くせに、暖かい季節には頑として添い寝を拒絶する。昨日もそうだった。うーうーうなり声を上げながら、もがいてみたり爪を立ててみたり、少しの隙間から出ていこうとしたり、およそ僕の安らかな寝入りを妨害する事によって、添い寝の義務から解放されようとする訳である。しかし、添い寝をしない様なネコは愛玩動物の本分を弁えてないと考える僕は、必死の努力で扶持をベットに留めようとする。こうして、万物の霊長と肉食目動物が、狭いセミダブルのパイプベットの上で、不毛な闘争を展開するのである。
 だが、こんな争いはあまり長く続かない。なぜならば、夜更かし魔王の僕が寝るくらいだから相当に眠い訳で、それに対してひがなひにち寝ている扶持の方がパワーが断然上で、すぐ逃げられてしまった挙げ句、追撃もままならず僕の方が寝てしまうからである。