またしても扶持の奴が調子悪い。3週間ほど前から余りエサを食わないなぁ、と思っていたら、段々「ぐぇ、げっ」とえずく様になった。好き嫌いの激しい奴ではあるが、それにしては芸の細かい事だと感心して様子を見ていたのだが、それにしては堂に入ったえずき方である。ネコ缶の小骨でものどに引っかかっているのかと思うほど、激しくえずいているのである。よく観察していると、たまに前足でのどに詰まった何かをかき出そうとする仕草までする。明らかにおかしいのである。さぁどうするか。余りひどい様であれば、また病院に連れていかねばならない。しかし、そうなればいくら掛かるか判らない。正直なところ、今家計はそんなに裕福ではない。元ノラ猫に高い病院代を掛けたくないのが本音だ。しかし、容態はそんな悠長な事を言ってられない状態になっていた。それまでは気に入ったエサなら、えずきながらでもペロンと食っていたのだが、この頃では少し口を付けただけでげーげーえずいているのである。つまり、全然メシが食えない訳だ。心なしか痩せてきているし、このまま放っておいても良くならなさそうである。取り敢えず他のところは悪くなさそうであるし、まだ体力も十分ありそうである。病院に連れていくなら今しかない、と考え、貯金を下ろして今年3度目の病院通いをする決心をした。
 さすがに3度目となると慣れたもので、ネコを洗濯ネットに放り込んで南京袋に入れ、担いで原付に乗って病院に連れていった。道中、不安そうにニャーニャー鳴いていたが、お構いなしである。時間にしてわずか10分程度の道のりであるが、ネコ連れて事故る訳にはいかないから、いつも以上に運転は慎重だ。南京袋に遠心力が掛からない様に運転するのはすこしコツがいるものである。そうこうしている内にS井動物病院に到着。さっそく診察開始。例によって僕がネコの手と足を持ち、逃げ出さない様にせねばならない。ところが、日頃だらだらしているくせに、こういう時は激烈な抵抗を示すのがネコの本性らしくて、診察にかなり手間取る事になった。しかも今回は口の中という事もあって、なかなか難しい。そもそもネコの口を開けさせるのは難しいのである。そこへ持ってきて鉗子みたいな器具で口をこじ開ける訳であるから、それはもう、拷問にでも掛けているかの様な大声でわめき散らすのである。まぁ、ネコにしてみれば、何をされるか判ったものではないから、ちょっとした事でも大騒ぎなのであろう。これが歯医者なら治療不可能、それこそ麻酔でも掛けない事には治療できないんじゃないか。およそネコに、人間的な辛抱は要求できないらしいのである。(肉体的な痛みには非常に強い耐性を持っているらしい)
 診察の結果は、口内炎ないしは猫エイズの感染、その他諸々、要するに小骨が引っかかったとかではないらしい。つまり、口の中が始終痛い状態になっているのだとの事。事実、歯茎のあちこちが赤く腫れ上がっていた。これは余所の猫に噛まれたなどして、ウイルスに感染して起こる病気との事で、それなら心当たりは十分にある。しかも噛まれてから数ヶ月たってこうした兆候が現れる事もある、という事だから可能性濃厚である。右手を噛まれた時か、左足を噛まれた時にでも、変なウイルスをうつされたに違いない。まぁ、こうなったら僕の手には負えないので、やはり病院に世話になる他ないであろう。取り敢えず、炎症止めの注射を打たれ、5日分の薬をもらって帰った。薬を飲ませて様子を見てくれとの事だった。良くなればよし、ならなければ長引くかも知れないとの事である。困ったものである。