8007924b304e62fa8d15dbad5ab2d4c4

 この本、1983年に刊行されたというのは、つい最近まで知らなかった。自分がこの本を買ったのは1992年ころだったが、9年も前に刊行された本だとは思わなかった。まぁ、本に載っている装備がその当時も売っていたし、アウトドアやバイクの事に詳しくなかったせいもあるが、全然古さを感じなかったのだ。そして、古さを感じないという意味では、今でも同じである。この本のあとにも、似たようなノウハウ本を出されているが、この本を超えるものがない、と自分は思うのである。
 この本は全般的におもしろ可笑しいのであるが、何が面白いと言っても、野グソの事まで言及しているのはこの人だけである。大体、野宿する事自体がかなり難しく、また根性の要る事なのだが(自分は一度やろうとしてやりきれなかった)、野グソとなると相当の勇気を有する。しかも勇気だけでなく、野グソ地の選定、野グソの方法、隠蔽の徹底となると、これは秘儀と言って良い。それをイラスト入りで事細かに書いているのだから、感動ものである。
 その意味で、この本ではつまらない「飾り」は全然なくて、またそれが肩肘はらず読める魅力だと思う。野宿とは言えども一応はキャンプな訳だが、キャンプ本につきものの「家でも食わない様な豪華キャンプ料理」とは、この本はまったく無縁である。書いてある事は、「メシに塩かけてくたら美味い」というシンプルというか、いい加減というか、でも実際そんなもんだと納得できる事である。栄養が偏らないように、野菜ジュースでも飲んどけと書き加えてあるところがシブイではいないか。風呂に入らない最高記録とか、川の水で洗濯するとか、とにかく飾り気のないリアリティーがおもしろ可笑しく書いてある。説得力あるな、と今でも思うのだ。
 また、この本である意味ショックだったのは、寺崎勉という人は、写真で見る分にはかなりむさ苦しいというか、小汚いというか、そんな感じの身なりなのに、この本の所々には、すんごいポエミーな事が書いてあって、とてもこんな汚いおっさんが書いたとは思えないのである。人は見かけで判断してはいけないのだが、そのギャップがいまだに信じられない。でも、そうした文才が、寺崎さんの魅力というか、バイクとペンで食っていける能力なんだろうな、と思う。
 寺崎勉さんは、この本で林道野宿という新しい趣味を開拓し、オフロードバイクにオフトレール車としての使命を付け加えた。惜しむらくは、自分がこの本を始めて手にした時、乗っていたバイクはホンダ・ブロスというオンロードバイクで、しかも林道を走るといった事には全然興味がなかった。舗装路でツーリングしている分には、人里離れたところで野宿などはまず無理だったし、また川原など野宿出来そうなところを嗅ぎ分ける能力もなかったから、今にいたるもこの本の教えを実践していない。最近になって、やっとこオフロードバイクに乗ってみたくなり、この本を改めて読み直して、ウズウズしている体たらくなのだ。