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 オプティマス45のレストアがまだ途中の時、試しで湯沸かしをしてみたのだが、2リットルの薬缶を沸かすのに24分経っても沸騰しきらず、とうとう諦めたという事態に直面した。確かに気温も低く、微風があって、風に弱いケロシンストーブには不利な条件である。ケロシンストーブはガソリンやガスに比べれば火力が弱いと言われているが、コールマンのフェザーストーブなら12分もあればボッコボコに沸騰するのに、これでは使い物にならんではないか、と感じた。
 しかし、植村直己は最後の最後までケロシンストーブを安全上の理由で使っていたというし、さらに遡れはヒラリーやアムンゼンといった探検家や登山家も、ケロシンストーブを使っていたのである。まぁ、アムンゼンくらいの時代になると、他にポータブルストーブが無かったという事情もあったろうが、にしても、こんな使い物にならんもので甘んじていたのかどうか、かなり疑わしい事になってきた。他に使える物がない、あるいはガソリンより安全という理由で、ぬるま湯しか作れないストーブでも、有り難がって使っていたのであろうか。
 結論からいうと、定格の性能を発揮する様になったオプティマス45は、それほど性能の悪いストーブではなかった。2合の飯を炊くのに、強火で約4分、弱火で約4分半。2リットルの薬缶を沸騰させるのに約14〜15分。この数字は、コールマンのガソリンストーブより10〜15%ほど火力が落ちているだけの数字である。風除けを工夫しても風の影響を受けない訳に行かない分のロスの様なものである。つまり、当時においても現在においても、十分に使える道具だった、という事である。なるほど、そうでなければ廃れてたっておかしくはないのだ。
 今回、期せずしてケロシンストーブのレストアをする事になったのだが、その過程で、このストーブが特許を取った126年前まで軽く想いを馳せる事が出来たのは、今回のレストアの一番の成果だったと思う。イギリスの史家、E.H.カーはその著書『歴史とは何か』の中で、「歴史とは、現在と過去との対話である」と繰り返し述べているのだけど、今回のレストアを通じて、自分はほんの少し、過去と対話出来た様な気がする。レストア済みのものを買っていたら、この体験は出来なかったろう。