IMG_4617

 実のところ、子供の頃は鰹節はそれほど好きではなかった。カスカスした紙っぽい食感があまり好きでなく、今でもコンビニのおにぎりでおかかは買わない。しかし、何でもかんでも鰹節は食べないのか、というとそうでもなくて、冷や奴には欲しいし、湯豆腐や水炊きのポン酢にも入れたいし、鰹節に醤油かけて熱々の飯で食うのも好きである。つまり、嗜好が変わったのであろう。
 さて、スーパーなどで売っている鰹節は、いわゆる削った状態の削り節である。これしか見かけないから、鰹節というとビニール袋に入った鉋の削りカスみたいなのしかイメージ出来ない人も多いのではないか。しかし、本来は鰹節は、その名の通り、鰹の身を干したものである。御徒町のアメ横や京都の錦市場なんかに行けば、本来の鰹節が売っている。それを削って食べる訳だ。
 その鰹節、わざわざ塊のを欲しくなる作品が二つある。一つは秩父事件を扱った映画『草の乱』で、政府軍に破れた秩父困民党軍の幹部が、逃れた山の中で鰹節を小刀で削って食べているシーン。ほほう、こういう食べ方があるんだと初めて知った。もう一つは比留間宏氏の『地獄の戦場泣きむし士官物語』の中で、撤退中、落ちてた鰹節の欠片を拾って、それを削って飯にかけて長い事食べた、という話しが出てくる。そこで、鰹節の塊を削って食べてみたくなったのである。
 上にも書いた様に、削ってない鰹節は、御徒町の乾物屋に行けば売っている。ところが結構良いお値段する。それこそ、5センチくらいあれば、興味を満足させられるのだが、そんな小さいのはなくて、安くても2000円、高ければ4000円近かったりするデカイのしかない。流石に食べきれないと思い、なかなか手が出せずにいた。ところが去年、嫁さんと帰省かねがね京都に行った時、嫁さんが錦市場に行きたいというから連れて行ったら、上に書いた通り、乾物屋がある。上等そうな鰹節も置いてある。どうするか、買うか、やめとくか、荷物になるしなぁ、でもトランポで来てるから荷物にはならんか、と店の前を行きつ戻りつ3回くらいやって、旅先で気が大きくなってるのも手伝って、とうとう買ってしまった。
 で、実家にその鰹節を持って買えると、親父が、どっから持ってきたのか知らないが、鰹節削り器があるから持って帰れという。まぁ、どっちみち削って食わねばならないから、貰って帰ってきた。ところが、アレもって帰れコレもって帰れの大量の食料品の中に、パックの削り節も大量にあって、先にそっちを消費していたら、削る方の鰹節の出番がなかなか回ってこない。
 そんな訳で、長い事、冷蔵庫の中で縮こまっていたのだが、今朝、ようやく日の目を見る事になった。鰹節削り器も今日、初めて使ってみた。刃が古いのか、花鰹みたいには削れないが、何となく削れる。鰹節削り器は、奥に押すのでなく手前に引いて使うのだという事も気がついた。食べてみた感じは、やっぱり高いだけあってか、美味い。味が濃厚である気がする。削る手間は確かにあるが、もうちょっと刃が切れれば、これはこれで面白い。出来れば、映画や本の様に、小刀で削って食べてみたいものである。

IMG_4619
猫に鰹節